“Soy América latina, un pueblo sin piernas pero que camina”
「足は無いけどそれでも歩いている、俺はそんなラテンアメリカさ。」
今年3月に新作のアルバムを発表したばかりの
プエルトリコ出身の社会派バンドCalle 13(カジェ・トレセ)の曲
義兄弟のレシデンテ(Rene Perez Joglar)と
ビシタンテ(Eduardo Jose Cabra Martinez)で2004年に結成。
ラテングラミー賞は最多の19個受賞、南米全土で人気がある。
レシデンテ(Residente)は居住者、ビシタンテ(Visitante)は訪問者という意。
2人が2歳のときに義兄弟となった2人だがその後両親が離婚。
Reneが引っ越した先はゲーテッド・コミュニティと呼ばれる塀で囲まれた居住区だった。
治安が悪い南米にも多くあり
ゲートには警備員が配置されていて入場する際にResidente? Visitante?と聞かれる。
そこからきたジョーク混じりの名前で
バンド名のCalle 13は住所が13ストリートだったからだ。
レゲトンをベースにした軽快でキャッチーな曲調に風刺色の強い鋭い歌詞。
そんなギャップがラテンアメリカらしさをよく表している。
「君のおへそを舐めさせて♡」みたいなレゲトンらしい曲ばかりかと思いきや、
南米の腐敗した社会や政治を訴えかけるものがそれ以上に多い。
彼らは自分たちの事を
“too poor to be rich and too rich to be poor"
(金持ちになるには貧しすぎるし貧乏になるには金持ちすぎる)
と表現している。
実際に母は舞台女優で父は弁護士、彼ら自身も学士を持っていて、
チャラチャラとしたルックスと違い歌詞からは知性を感じる。
キャッチーな音楽で注目を浴びた彼らはその名声を利用し社会問題を扱う様になる。
踊りたくなるような軽快な音楽と悲痛な現実を突きつける音楽、
その両方が一つのアルバムに収録されている。
曲調はレゲトンだったりラテン系だったりするから
意味を考えずに聞いているとラテンに帰ったような明るい気持ちになるのだが、
歌詞を読み解いてみるとそこにはラテンの影が色濃く感じられる。
Hay poco dinero, pero hay muchas balas(金は少ししかないが、銃弾はたくさんある)
Hay poca comida, pero hay muchas balas(食料は少ししないが、銃弾はたくさんある)
Hay poca gente Buena, por eso hay muchas balas(いい人は少しいない、だからたくさんの銃弾がある)
Cuidao’ que ahi biene una(気をつけろ、ほら銃弾が来たぞ)
明日の心配なんてせずに明るく今を楽しむ気質のラテンの人々は
私たちには楽天家で羨ましく見える。
それは逆に、危険と隣り合わせのラテンの人々は明日が無いかもしれない、
だったら今楽しまなきゃと潜在的に感じているとも言える。
独立運動とCalle 13
プエルトリコは400年もの間スペインに支配されその後アメリカの手に渡り統治が続いている。
1898年にはプエルトリコの自治政府が誕生し独立に近づいたと思った矢先に
米西戦争が勃発し負けたスペインは領土の一部をアメリカに割譲、
プエルトリコはその犠牲になりアメリカ領土となったのだ。
独立運動を率いていた人民軍(通称Los Macheteros)は
アメリカにテロリスト集団として扱われ、
その指揮者であるフィリベルト・オヘダ・リオス(Filiberto Ojeda Rios)は
何年もの間、指名手配される。
後にF.B.Iによって殺されるが、
銃撃を受け意識のある中、何時間もの間血を流しながら死に絶えたという。
これを不当だと訴えた『Querido F.B.I(親愛なるF.B.I)』は
事件の30時間後にネットで無料配信された。
Calle 13が歌の中で扱う社会問題の中でも最も知られているのが警察の暴行問題。
南米では警察の社会的地位は低く給料も低い。
警察が腐敗しているのは南米では周知の事実だ。
Rene自身も親友が犠牲になっている。
交通違反で逮捕された親友は手と足に手錠をかけられ
3人の警官に何時間にも渡り暴行を与えられ死亡したという。
Calle 13はこの曲を入れたCD、2万枚を警察本部の前で無料配布した。
彼らは言う。
弱い者(社会的弱者)は武器を持つ。
俺らは武器の代わりに曲を書く。
南米で社会的メッセージを発信するのは命がけだ。
実際に彼らは殺害予告を何度も受けている。
それでも醜い現実に真っ向から向き合いながらメッセージを発信し続ける彼らが、
ただただハッピーでおバカな曲もたくさん生み出している。そこが彼らの魅力だと思う。
バカっぽくて大好きなのは
やっぱり私はハッピーな曲が好き。
実際にラテンでもチャートに乗るような彼らの曲はハッピーなものばかり。
でも、そんな光の裏に根深い影がある。
それでも影を跳ね返す様なラテンの陽気さ、
その強さをこれからも探っていきたいし伝えていきたい。
かつて私が救われたから。
“Soy América latina, un pueblo sin piernas pero que camina”
「足は無いけどそれでも歩いている、俺はそんなラテンアメリカさ。」
明日を憂い、
悲観しがちな日本人に、
ラテンのエッセンスを。
Natsuko